Webディレクターの4タイプ|デザイナー視点の付き合い方と進め方

Webディレクターの4タイプ|デザイナー視点の付き合い方と進め方

フリーランスとして活動していると、案件ごとに違うタイプのディレクターと組んでデザインを進めることになります。
同じスキルで臨んでも、相手のタイプで出てくるものも自分の動き方も変わります。
これは何件も並走してきて、毎回のように実感しています。
とくに見極めたいのが、渡された構成案(ワイヤー)に対して「ここは提案を足していいのか」、それとも「指示どおりにそのまま進めるべきなのか」という判断です。これはディレクターのタイプが分かっていないと読み違えてしまいます。タイプを掴めれば、どこで提案を出し、どこで素直に従うかの当たりがつくようになります。
もうひとつ、現場で大きいのが コーディングまわりの理解度の差です。ディレクターによっては、画面幅で見た目が可変すること(レスポンシブ)や、コンポーネント設計・アトミックデザインといった考え方に馴染みのない方も少なくありません。そこで本記事では、タイプ別の付き合い方に加えて、「実装・コンポーネントの観点でどう設計を進め、どう伝えるか」も添えていきます。

御用聞き型

クライアントの要望を尊重し、できるだけ忠実に形にしようとするタイプです。デザイナーから見ると、クライアントの言葉がそのまま届くぶん、初稿の段階で細かな調整のやり取りが増えやすくなります。注意したいのは、御用聞き型ゆえにクライアントの一声で方針が変わりやすく、合意したはずの構成案ごとひっくり返ることがある点です。決定事項は記録に残し、要所では「この変更で全体がどう変わるか」を一度立ち止まって確認すると、振り回されにくくなります。

デザイナーにとってのメリット

– クライアントが「言った通りになった」と感じやすく、承認や検収は通りやすいです
– クライアントの生の要望が直接届くので、「何を求めているか」自体は掴みやすいです
– 要望がはっきりしている部分は、迷わず手を動かせます

デザイナーにとってのデメリット

– クライアントの一声で、固めたはずの構成案が無視され、ひっくり返ることがあります
– 初稿からの修正・やり直しが増え、デザイン全体のクオリティが下がりがちです
– コンポーネントなどのデザインルールが破綻しやすくなります

現場メモ(教訓)

御用聞き型のディレクター経由でクライアントの要望が次々に届き、固めたはずの構成案が覆ることもあります。そんなとき私は、要望を「通す/通さない」で二分しません。一つずつ、「この要望をそのまま通したら、デメリットがあるのか、それとも問題ないのか」を確認します。見た目・使い勝手・コンポーネントのルール・レスポンシブのどれにも実害がなければ、素直に言うとおりにします。逆に、共通パーツが崩れる、可読性や導線が落ちる、といった実害がある部分だけ、理由を添えて「ここはこうしたほうが安全です」と確認します。

教訓

すべての要望を「のむ/断る」で考えると消耗します。「通したときに実害があるか」で仕分けると、素直に従うべきところと、止めるべきところがはっきりします。

実装・コンポーネント視点

このタイプは、コーディングやコンポーネントの仕組みに馴染みがない場合が多く、「この見出しだけ大きく」「ここだけ色を変えて」といった部分最適の指示が積み重なりがちです。結果として、共通パーツのルールが少しずつ崩れていきます。
実装時に起きやすいこと: 見た目は似ているのに値が少しずつ違うパーツが量産され、コンポーネントとして共通化できずにCSSが膨らみます。1か所直すと他ページにも手作業の修正が必要になり、余白やフォントサイズも指示ベースでバラついて、レスポンシブで崩れる箇所が増えます。デザインデータと実装がズレやすく、後々の保守コストも上がりがちです。
対策としては、デザイナー側でボタンや見出しなどのパーツ一覧(簡易なデザインシステム)を先に用意し、「この変更だと、同じ部品を使っている他のページもこう変わります」と影響範囲を見せるのが有効です。レスポンシブで可変することも、PCとスマホのモックを早めに並べて共有しておくと、認識のズレを防ぎやすくなります。

実装メリット

指示が具体的なので「何を表示するか」は明確で、作る対象自体は迷いにくいです。

実装デメリット

パーツを共通化できずCSSが膨らみ、1か所の修正が全ページに波及。保守コストが上がりやすいです。

本に学ぶ

『超実践的 Webディレクターの教科書』は、ディレクターには受け身ではなく主体的な提案が求められると説いています。「やっぱりなんか違う」という差し戻しが重なると、デザイナーもクライアントも消耗してしまいます。御用聞き型で調整が増えやすいのは、提案が一歩足りないことが一因です。逆に言えば、デザイナー側から「なぜこうしたか」をひとこと添えるだけで、やり取りはぐっと楽になります。

クオリティ追求型(説得型)

デザインの解像度を上げるために、ディレクター自身がクライアントを納得させにいくタイプです。デザイナーの意図を汲んで、代わりに交渉してくれます。最初はぶつかることもありますが、できたものは確実に良くなります。実際、このタイプと組んだ案件は、序盤の議論こそ濃かったものの、最終的な仕上がりには一番納得がいきました。構成案にも「ここはこうしたい」と提案を返しやすいです。

デザイナーにとってのメリット

– デザインの意図を尊重してくれて、提案が通りやすいです
– 「なぜこの設計か」を一緒に言語化して伝えてくれます
– 完成度が上がり、自分の仕事として胸を張れます

デザイナーにとってのデメリット

– 序盤は対立しがちで、進行が一時的に重くなります
– 要求水準が高く、ラフな初稿では通りません
– 説得材料(根拠・参考事例)を自分も用意する必要があります

現場メモ(教訓)

クオリティ追求型と組むと、修正依頼が来たときに「言われたとおり直す」前にひと手間かけられます。私はまず、なぜこの修正なのかを整理した資料(意図や根拠をまとめたもの)を用意して、ディレクター越しにクライアントの話を聞きにいきます。すると、依頼された修正そのものが目的ではなく、その裏に別の意図がある、というケースがよくあります。「ここを直して」という指示の奥に、「本当はこういう印象にしたい」という別の狙いが隠れている、という具合です。意図さえ掴めれば、言葉どおりの修正より良い着地が見つかります。

教訓

修正は言葉どおりに直さない。「なぜその修正か」を資料を用意して聞きにいくと、本当の意図は別にあることが多く、依頼そのものより良い直し方が見えてきます。説得型は、この掘り下げに一緒に付き合ってくれる相手です。

実装・コンポーネント視点

品質志向で、こちらの設計意図にも耳を傾けてくれるので、コンポーネント設計やアトミックデザインの考え方を提案として通しやすいタイプです。「パーツ単位で設計しておくと、全体の一貫性が保ちやすく、後からの調整もきれいに効きます」と伝えれば、デザインシステムを一緒に育てていける相手になります。可変(レスポンシブ)の挙動も、意図を共有しておけば「ここはこう変わるべき」と一緒に詰められます。

実装メリット

コンポーネント設計が通りやすく、再利用しやすい一貫したコードになります。

実装デメリット

細部のこだわりが多く、作り込みの工数が増えてスケジュールが押しやすいです。

本に学ぶ

『Webデザイン受発注のセオリー』は、デザインが「センス」や「好み」で押し付けられがちな分野だと指摘し、センスではなくロジックで導く「デザインコントロール」を示しています。説得型とうまく組むコツは、デザイナー自身もロジックを持つことです。『ノンデザイナーズ・デザインブック』の4原則(近接・整列・反復・コントラスト)は、「なぜこの配置か」を言語化する武器になります。良いデザインは才能ではなくルールで説明できる——そう立てると、説得は一気にやりやすくなります。

進行管理型(QCD・納期優先型)

品質(Quality)・コスト(Cost)・納期(Delivery)の管理を最優先するタイプです。デザイナーには明確なスケジュールと整理されたタスクが渡されます。納期がタイトな案件ほど、このタイプの段取りのありがたみを感じます。構成案は固まっていることが多いので、まず守るべき枠として受け取るのが安全です。

デザイナーにとってのメリット

– いつまでに何を出せばいいかが明確で、動きやすいです
– 仕様や素材が整理された状態で渡ってきます
– 段取りがよく、炎上や深夜作業が起きにくいです

デザイナーにとってのデメリット

– 作り込みより「期日に間に合うか」が優先されがちです
– 「もう一段良くしたい」が時間切れで見送られやすいです
– 攻めたデザインより、無難な落とし所を求められます

現場メモ(教訓)

進行管理型と出会うのは、イベントサイトのように納期が最優先の案件や、コンサル会社・広告代理店が間に入る案件が多いです。こうした相手には、デザインのトレンドや見た目の派手さで押すより、「この構成・この動線のほうが伝わります」と設計や導線で提案するほうが通りやすく、結果としてデザインの質も担保できます。とくに代理店・コンサル経由では、CMSに入稿しても崩れない・検索評価を落とさないことが前提になるため、「SEOやCMSで破綻しない設計」をセットで提案する必要があります。ただし、キャンペーンのようにWebGLや動画など表現そのものが主役になる案件では、同じ進行管理型でもクオリティ追求型(説得型)に近い進め方になることもあります。

教訓

納期優先の案件では、見た目より「構成・動線」、そして「SEOやCMSで破綻しない設計」で提案するとデザインを守れます。ただし表現が主役の案件(WebGL・動画など)では、品質に踏み込む説得型寄りの動き方が必要になることもあります。

実装・コンポーネント視点

効率を重視するタイプなので、コンポーネント化は「再利用すれば工数が減り、納期にも効きます」という文脈で説明すると、すんなり通りやすくなります。パーツの粒度や命名のルールを着手前に握っておくと、後半の手戻りが減り、進行も安定します。可変(レスポンシブ)対応は、スケジュールに「PC・スマホそれぞれの確認」をあらかじめ組み込んでもらうと、終盤の駆け込み修正を避けられます。

実装メリット

仕様・素材・スケジュールが整っており、手戻りが少なく実装に集中できます。

実装デメリット

納期優先で、リファクタや最適化・アクセシビリティ対応が後回しになりがちです。

本に学ぶ

『超実践的 Webディレクターの教科書』では、クオリティを落とさないために、各タスクで「どのレベルを求めるか」という基準をあらかじめ明示する大切さが語られています。優れた進行管理型は、納期を守らせるだけでなく「クオリティの基準」と「スケジュール」をセットで渡してくれます。基準が曖昧なまま締切だけ来ると、デザインは妥協の産物になりやすいです。

 

成果戦略型(ビジネス志向)

見た目の好みより、クライアントのビジネス成果(CV・売上・集客)で判断するタイプです。「カッコいいか」ではなく「数字が動くか」を基準にします。数字で語られると最初は戸惑いますが、慣れると判断軸が明確でぶれにくくなります。構成案に手を入れるなら、「この変更は成果にどう効くか」をセットで示すと通りやすいです。

デザイナーにとってのメリット

– 好み論争に巻き込まれにくく、判断基準が明確です
– 成果が出れば評価され、説明コストが下がります
– マーケティング視点が身につき、引き出しが増えます

デザイナーにとってのデメリット

– 美しさやこだわりが「数字に関係ない」と切られることがあります
– A/Bテストや改善で、自分のデザインが上書きされることもあります
– 作り手の達成感より、数字の達成感が優先されがちです

もし組むなら(想定)

正直なところ、成果戦略型のディレクターとがっつり組んだ経験はまだ多くありません。ただ、もし組むなら、デザインの良し悪しを「好み」ではなく「数字」の言葉に翻訳して提案するのが近道だと考えています。たとえば「この余白を広げたい」ではなく「この導線なら離脱が減り、CVに効くはず」と仮説の形で示す。参考書の考え方を借りれば、ユーザーは見たいものしか見ない前提で、まずゴールとKPIを決め「(具体的な決め方はKPI設計から導くビジネスロードマップで解説しています)」、施策→計測→改善のループで判断する——この順序にデザインを乗せ、「誰の、どの行動を後押しするか」で説明できると噛み合うはずです。

想定

デザインを「好み」ではなく「数字・行動」の言葉に翻訳し、ゴール→KPI→改善の順序に乗せて、計測できる形で提案すると通りやすいはずです。根拠のない「なんとなく綺麗」は通りにくい、という見立てです。

実装・コンポーネント視点

数字で語るタイプなので、コンポーネント化は「差し替えやA/Bテストが速くなり、改善のスピードが上がります」という成果の文脈で提案すると刺さります。可変(レスポンシブ)についても、「スマホでの見え方がCVに直結します」と紐づけて伝えると、優先度を上げてもらいやすくなります。デザインのこだわりを通したいときも、「この調整は離脱を減らすため」と成果に翻訳して説明するのがコツです。

実装メリット

改善前提のきれいな設計や、計測タグ・イベントを組み込みやすいです。

実装デメリット

改善のたびに変更が頻発し、計測要件も増えて実装が複雑になりがちです。

本に学ぶ

『デジタルマーケティングの定石』は、ユーザーは自分の見たいものしか見ない、という前提を突きつけます。検索から訪れたユーザーの滞在は1分にも満たないことが多く、サイトにできるのは「新しい気づきを与える」ことより「期待に応える」ことだといいます。さらに、ユーザーに意見を直接聞くのではなく行動を観察せよ、とも説いています。『Webサイトの分析・改善の教科書』も、まずゴールとKPIを設計し、データを見て改善のPDCAを回す順序を重視しています。成果戦略型と組むなら、デザイナーも「これは誰の、どの行動を後押しするデザインか」を意識すると、話が噛み合います。

まとめ:どのタイプと組むかで、デザイナーの仕事は変わる

4タイプを、デザイナー目線で並べるとこうなります。

タイプ 見ている先 一言でいうと
御用聞き型 クライアントの言葉 要望は明確、提案はひと言そえて
クオリティ追求型 エンドユーザー 詰められるけど、いいものになる
進行管理型 プロジェクト 動きやすいが、作り込みは妥協も
成果戦略型 ビジネス成果 主観論争は減るが、こだわりは切られがち

組みやすさで言えば、多くのデザイナーにとって理想は クオリティ追求型だと思います。
意図を汲んで交渉してくれる相手とは、いいものが作りやすいからです。

ただ、現実には御用聞き型のディレクターと組む場面も多いので、そこで効いてくるのが、デザイナー自身が「説得の材料を出せる」ことです。今回参考にした本を貫いているのは、突き詰めると次の3つだと思います。

受け身にならない

『Webディレクターの教科書』——指示を待つのではなく、ゴールから逆算して提案します

センスではなくロジックで語る

『デザイン受発注のセオリー』『ノンデザイナーズ・デザインブック』——「なぜこの色・この配置か」をルールで説明します

主語をユーザーと成果に置く

『デジタルマーケティングの定石』『Webサイトの分析・改善の教科書』——好みの話を、行動と数字の話に変えます

この3つを自分の中に持っておけば、御用聞き型が相手でも提案が通りやすくなり、クオリティ追求型とは対等に組め、成果戦略型とも同じ土俵で話せます。冒頭の「構成案に手を入れていいか」という問いも、この引き出しがあれば落ち着いて判断できます。

ディレクターのタイプは選べないことが多いです。
だからこそ、どのタイプが相手でも自分のデザインを通せる引き出しを持っておく。
それが、結果的にいちばん強いデザイナーだと思います。

この記事について

フリーランスのWebデザイナーとして、デザインから実装まで複数の案件を担当する中で、さまざまなタイプのディレクターと制作を進めてきた経験をもとにまとめています。
タイプ分けはあくまで傾向の整理で、実際の一人ひとりは複数の性質をあわせ持っています。
判断のひとつとして参考にしていただければうれしいです。

参考書籍

– 中村健太・田口真行・高瀬康次『第一線のプロがホンネで教える 超実践的 Webディレクターの教科書』(マイナビ出版)

– 片山良平『Webデザイン受発注のセオリー デザインコントロールが身につく本』(ワークスコーポレーション)

– 垣内勇威『デジタルマーケティングの定石 なぜマーケターは「成果の出ない施策」を繰り返すのか?』(日本実業出版社)

– ロビン・ウィリアムズ『ノンデザイナーズ・デザインブック』(マイナビ出版)

– 小川卓『現場のプロがやさしく書いたWebサイトの分析・改善の教科書』(マイナビ出版)

Writer

稲葉 恭平Designer

この記事を書いた人

稲葉 恭平

1986年愛知県生まれ。制作会社での3年間のキャリアを経て、2014年に「ダブダブダブ」として独立。 デザイナーとしての感性を軸に、戦略立案からマーケティング、そして最終的な実装までを一貫して手がけています。 私の強みは、上流工程の「戦略」…

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